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梓「手、繋いでいいですか」 -
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1 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[saga]:2011/11/23(水) 22:57:11.17 ID:iCVRijr50
律「手、繋ごっか」の(一応)続編にあたります
不定期更新ですが、完結までのんびりと書いていきます
宜しければ最後までお付き合いください
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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【安価】上条「とある禁書目録で」鴻野江「仮面ライダー」【禁書】 @ 2025/06/09(月) 21:43:10.25 ID:qDlYab/50
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ツナ「(雲雀さん?!)」雲雀「・・・」ビショビショ @ 2025/06/07(土) 01:30:36.87 ID:AfN9Rsm0O
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【安価コンマ】障害走を極めるその5【ウマ娘】 @ 2025/06/06(金) 01:05:45.46 ID:RaUitMs20
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貴様たちの整備のお陰で使いやすくしてくれてありがとう @ 2025/06/04(水) 20:56:21.03 ID:QjuK6rXtO
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阿笠「わしの乳首に米粒をくっ付けたぞい」コナン「は?」灰原「は?」 @ 2025/06/04(水) 04:01:13.39 ID:ZjrmryLdO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1748977273/
レッド(無口とか幽霊とか言われるけどまだ電脳世界) @ 2025/06/02(月) 21:21:00.13 ID:ix3UWcFtO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1748866860/
キンタマ @ 2025/06/01(日) 19:16:06.13 ID:s9SMehQ1O
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1748772966/
2 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 22:58:58.49 ID:iCVRijr50
「こんにちは」
太陽が真上に登った頃、私は久しぶりに部室に足を踏み入れた。
長いようであっという間に過ぎていった夏休みが終わり、受験生である先輩たちが いなかったため軽音部の活動がなかったから、久々に部室の空気を吸った私はなんとなくハイな気分になった。
「久しぶりだねえ、あずにゃん!」
唯先輩が嬉しそうに私に抱き着いてくる。
やっぱり久しぶりな唯先輩の温もりを感じながら、私は部室の奥に視線を移した。
澪先輩、ムギ先輩、そして律先輩がちゃんといた。
「梓、夏休み中中々集まれなくてごめんな?」
「夏期講習で忙しかったの」
澪先輩とムギ先輩が申し訳なさそうに言ってくるのを、「大丈夫です」と笑ってみせる。
「ていうかそんなこと言うのは律先輩の役目じゃないですか?」
夏休みの合宿以来、私の律先輩に対しての気持ちが変わった。
まだ少し苦手だと思う気持ちもあるけど、もっと律先輩と話してみたいと思った。
だから私は律先輩に何か言いたくて口を開いた。
しかし、以前からの癖かそれとも照れからなのか、そんな挑発的なことしか言えない。
律先輩は、ムギ先輩のもってきたお菓子をまさに今口に放り込もうとしていたところで、私が言葉を発した瞬間、喉の奥に落としたお菓子が詰まったのか「んぐっ」と変な声を出して咳き込んだ。
3 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:01:16.24 ID:iCVRijr50
お茶を飲んでそれを流し込み、律先輩は涙目になりながら私を睨んだ。
「別にいいじゃん、部長が絶対に集合かけたりするわけじゃないんだし」
「律先輩は元々部長らしいとこなんてないですしね」
あ、まただ。
思っても無い……否、少しだけ心に思っていた言葉が滑り出る。
さすがの律先輩も、きっと嫌な顔をするに決まってる。
けれど、律先輩は嫌な顔なんて全くせずに、「うっせー」と言いながら私にプロレス技をしかけてきた。
ちょっとだけ、嬉しくなる。
別にマゾとかそういうわけじゃなく、律先輩と触れ合えることが。
私は唯先輩みたいに上手く人とコミュニケーションをとれないし、人と触れ合うことだって嫌いだった。
だけど今は、ほんの少し、この軽音部の雰囲気に馴染んだからなのかも知れない、嫌いではなくなっていた。
「あっ、そういえば」
律先輩に頭をぐりぐりされながら、私は突然あることを思い出した。
唯先輩が家から持ってきたのか、もうすぐ旬の蜜柑を食べているのを見て、なぜか去年の学園祭のことが頭に浮かんだ私は、少し上にある律先輩の顔を見た。
「ん?なに?」
「もうすぐ学祭ですよね」
4 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:02:35.85 ID:iCVRijr50
澪先輩が持っていたシャーペンの芯をカチカチ言わせる。
勉強していたらしく、ノートと教科書を閉じると「そうだな」と言ってカップに口をつけた。
ムギ先輩は私がいつも座る椅子の前にお茶を置いてくれながら、「楽しみ~」と満面の笑みで言う。
「今年ももうそんな時期かー」
律先輩が私から手を離しながらしんみりとしたように言った。
私はあ、と思わず律先輩と澪先輩の二人を見比べてしまった。
去年の唯先輩の風邪と、そしてもう一つ、リズム隊の二人の雰囲気が悪くなったことを思い出す。
今年はあんなことないよね、と二人を見るけど、当の本人たちは気付いていないどころか思い出してすらいないようだった。
少しだけほっとする。
「学祭かあ、今年は何やろっか?」
唯先輩が蜜柑を食べながらわくわくとそう言った。
私はいつもの席に座りながら、「何か新しいことやりたいですね」と言ってみる。
唯先輩と律先輩が「おぉ」と声を揃えた。
この会話の中に入りたくて何となく言ったことだったので、本気にとられたことに少し驚いてしまった。
「でも新しいことってなんだろ」
「ふーむ」
唯先輩と律先輩が首を捻る。
私も言い出した限りは何か言わなくちゃと思って考えてみるけど、正直何も思い浮かばなかった。
律先輩が「新しい曲作るとか?」と漏らしたとき、突然澪先輩が待っていたかのように「それなら!」と立ち上がった。
5 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:04:07.73 ID:iCVRijr50
「私、夏休み中に詞書いたんだけど……どうかな?」
恥ずかしそうにノートを差し出す澪先輩。
それを律先輩が苦い顔をして受取った。
唯先輩とムギ先輩が身を乗り出してそのノートを覗き込む。
私も負けじと律先輩の持つノートを覗いた。
「頑張って書いてみたんだけど……あなたの匂いはスカンクとか、あま☆あまアマガエルとか!」
……相変わらず澪先輩のセンスがわからない。
タイトルといい、歌詞の内容といい、背中がむずむずしてしまう。
唯先輩が「なにこの動物シリーズ」と無邪気な顔をして言った。
別世界へトリップ気味の澪先輩を見ながら、律先輩は呆れたようにノートを閉じた。
「澪が動物ネタに走るときはスランプなんだ」
へえ、と相槌を打つ。
律先輩が澪先輩の幼馴染の死乳で、仲がいいことは知っていた。
けど、澪先輩のことをわかりきったような律先輩を見て、改めて入る隙なんてないんだなと思った。
――別に入りたいわけではないのだけど。
6 :
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(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:04:41.35 ID:iCVRijr50
「皆それぞれ詞を作って発表するっていうのはどう?」
ムギ先輩が「はいっ」と手を上げてからそう提案した。
律先輩が「お、いいな」と賛同する。
唯先輩のほうを見ると、意外にも唯先輩もノリノリな様子だった。
「ちょっと待って下さい!私も書くんですか?」
「当たり前だろ」
律先輩がきょとんとした顔で言った。
澪先輩に助けを求めようにも違う世界にトリップしたまま暫く戻って来そうにない。
何も反論する言葉が思いつかないまま、本決まりになってしまった。
「それじゃ明日それぞれ考えて発表な」
――――― ――
7 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:05:47.69 ID:iCVRijr50
だめだ、何も思いつかない。
歌詞を考えながら歩いても一文字も浮かんで来なかった。
私は作詞には向いていないのかも知れない。
「何唸ってるのよ?」
突然バシッと頭を叩かれる。
隣にはいつのまにか純の姿があった。
「あぁ、純。ジャズ研、今日終わるの早かったんだ?」
「夏休み明けだからねー。皆色々抜けてて練習にならないんだわ」
「うちの場合はいつも抜けてるんだけどね」
純は「ふーん」と言って意外そうに私を見た。
「何よ?」と訊ねると、純はニヤッと笑った。
「いや、夏休み終わってなんか梓、変わったなと思って」
「そうかな?」
「うん、前までは軽音部のことそんな顔して言わなかったのに、今は垢抜けたっていうか。やっと軽音部の一員って感じ?」
「……そう、かな?」
純の言葉に、私は少しだけ驚き、ほんのちょっと嬉しくなった。
夏休みに見た溢れんばかりの星空の下、先輩たちの大きな背中を、律先輩の優しい声を、繋げなかった手を思い出す。
8 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
[sage]:2011/11/23(水) 23:06:42.82 ID:khcdU7RSO
地の文がくどくね?
そういうスタイル?
9 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:07:02.05 ID:iCVRijr50
あの時、私は初めて先輩たちの隣に立てればいいと思った。
いつか律先輩の差し出してくれた手に自分の手を重ねたいと。
今自分がその場所に立てているとは思えない。
まだ、先輩たちのように手を繋げない。
だけど少しは前に進めているんだ。
そう思うと、肩の力が抜けていくようだった。
「で、今年も軽音部は学祭でライブするのよね?」
「うん。あ、それでね、新曲作るためにみんなで歌詞考えることになって」
「へえ!それでさっきあんなに唸ってたんだ?」
何も思い浮かばなくて、と私は苦笑する。
歌詞作りがこんなに難しいものだったなんて思わなかった。
純が腕組みしながら、さっきの私より遥かに大きく唸った。
「ジャズ研はそういうんじゃないからなあ。そういえば、軽音部の歌詞って誰が作ってんの?」
「あぁ、えーっと」
「唯先輩とかムギ先輩?率先輩はさすがにあんな歌詞書かないだろうし。まさか澪先輩なわけないし」
「ごめん、純。そのまさか」
澪先輩のファンである純は、一瞬きょとんとすると「な、なんていうか凄い可愛い歌詞だと思ってた!」と必死に作り笑い。
それでもすぐに受け入れるところを見ると、何となくわかっていたりしたのかも知れない。
10 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:08:06.21 ID:iCVRijr50
「はあ……澪先輩が……」
「それは澪先輩に失礼でしょ」
「うん……あっ、じゃあ梓、歌詞の作り方澪先輩に教えてもらえばいいじゃん!私がついてってあげるから!」
突然純が元気を取り戻し言った。
なんて変わり身の早い……。
「純が澪先輩と話したいだけでしょ」と言うと純は「ハハハ」と乾いた笑いを漏らした。
でも、確かに澪先輩にどんなふうに歌詞を書いているのか聞いてみるのはいいかも知れない。
11 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:09:37.46 ID:iCVRijr50
――――― ――
「澪先輩の電話番号は……っと」
家に帰ると、私は制服も着替えずにベッドに倒れこみ、携帯のアドレス帳を開いてみた。
そして、いざ電話を掛けようとボタンを押しかけたとき、私は今まで一度も澪先輩に電話を掛けたことがなかったことを思い出す。
唯先輩なら何度も電話したことはあるし、澪先輩だってメールくらいなら普通にしている。
だけど、電話と言うのは全く無い。
元々話すことが苦手だから、電話も正直なことを言うと嫌いだった。
そういえば、唯先輩以外(唯先輩も自分からかけたことはないけど)の軽音部の先輩に電話なんてしたことなかった気がする。
「どうしよ……」
澪先輩なら突然電話しても何も言わないと思うけど、それでもどうしても通話ボタンが押せない。
電話というものは不思議だ、なんて思ってしまう。
私は何度か大きく息を吸うと、迷う親指で通話ボタンを押した。
こんなことで迷ってたって仕方が無い。
携帯の向こうで冷たい呼び出し音が鳴り響いている。
やっぱり電話しない方が良かったかな、と後悔し始めたとき、『はい、もしもし』と声が聞こえた。
12 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:10:37.53 ID:iCVRijr50
「あっ、あの、澪先輩……」
『梓?珍しいな、梓が電話してくるなんて』
「はあ……えっと、突然すいません」
電話の向こうはうるさかった。
テレビでも見ているのかも知れない。
もしそうなら歌詞のことを聞くのは明日にした方がいいのかも。
それに何より、緊張して喉がカラカラだった。
『いや、いいよ、大丈夫』
「あの、やっぱり私」
切りますね、と言い掛けたとき、
『あぁ、やめろって!』という声がして、続け様に『ごめん、ちょっと待って』と保留音が流れ始めた。
「えっ、澪先輩……」
驚いて携帯を持ったまま固まっていると、すぐに『やっほー』と明るい声が聞こえた。
「律先輩!?」
『正解』
電話越しに聞こえる律先輩の声は笑っている。
私の反応が面白かったのだろうか。
「律先輩、どうして」
『いやあ、澪ん家押し掛けてたら梓から電話来てさ、澪にちょい変わってもらった。可愛い後輩の声が聞きたかったからな!』
さっきのテレビだと思った声は律先輩だったのかも知れない。
その証拠に、今は何も聞こえなかった。
13 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:11:28.04 ID:iCVRijr50
「なんですかそれ」
『澪が私のほうを助けてって感じで見てくるからさー』
そんなふうには見てない!と澪先輩の大きい声が聞こえた。
「えっと……」と返答に困っていると、律先輩がおかしそうに笑いながら澪先輩にちょっかいを出しているのであろう声が聞こえた。
学校以外でも本当に仲がいいらしい。
『で、梓はどうしたの?』
「へ?あぁ、えっとですね」
『あれだろ、澪に告白!』
「な、なんでそうなるんですか!」
『えぇ、違うの?てっきりそうかと思ったし。じゃあなに?梓が凄い言い難そうにしてるって澪が』
言い難そうというか、緊張してただけなのだけど、澪先輩はそう思ったらしい。
14 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:12:19.41 ID:iCVRijr50
「私は澪先輩に歌詞のことを聞こうと思って……」
『歌詞?』
「ほら、今日率先輩が明日考えて発表なって……」
ぷっと律先輩が噴き出したのが電話越しでもわかった。
始めはクスクス笑いだったのが、だんだん大きな笑い声になっていく。
「なんなんですか!?」
『いや、まさか澪に聞くほど真面目に考えるとは思わなくてさ!ていうか澪に聞いたらますます訳わかんなくなると思うんだけど』
いてっと声が聞こえた。
澪先輩に殴られたんだろう。
しかし、律先輩の口調じゃ律先輩は真面目には考えていないらしい。
やっぱり夏休み前と何も変わっていない。
変わったといったら私なんだろうな、と遠くに聞こえる律先輩と澪先輩の痴話喧嘩のような声を聞きながら私は思った。
夏休み前の私なら絶対に腹を立てていた。
今だってそうだけど、しかしそれでも心の中では許している自分が居る。
15 :
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(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:13:23.23 ID:iCVRijr50
それにしても、まだ律先輩が電話に出ない。
一旦切ってからまた掛けなおそうかと迷っていると、やっと誰かが電話口に出た気配がした。
『もしもし、梓?』
「あ、澪先輩」
どうやら澪先輩は律先輩を鎮めてしまったらしい。
律先輩の声は全く聞こえなくなっている。
『ごめんな、梓。律の奴……』
「あ、いえ!気にしないで下さい」
律先輩と話したせいか、さっきよりもスムーズに言葉が出てきた。
澪先輩は『そう?』と言ってから、『そういえば歌詞のことで電話してきたって聞いたんだけど』
と話を変えた。さりげなく私が話しやすいようにしてくれたんだろうか。
「はい。澪先輩がどうやって作詞してるか聞きたくて。澪先輩はええと、……いつも
凄く可愛い歌詞、書いてるじゃないですか」
『ほんと?律なんかいつも私の歌詞は背中が痒くなるなんて言うんだけど……私で
よければ手伝うよ』
「ありがとうございます!」
手伝うと言ってくれた澪先輩に、電話だから見えないとはわかっているものの、私は思わず頭を下げた。
澪先輩はたくさん歌詞を作っているから作り方のコツや極意なんかを知っているはずだ。
せめて唯先輩や律先輩(ちゃんと考えてくるとは思えないけど)よりはいい歌詞を書きたかった。
やるからには真面目にやらないと気がすまない。
16 :
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(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:13:54.03 ID:iCVRijr50
『いいよそんな。私も可愛い歌詞って言ってくれて嬉しいし。ただ、今日は律も来てるし明日でいいかな?』
「あ、はい」
『ごめんな、わざわざ電話してくれたのに』
「いえ、突然電話したのは私ですし。こちらこそすいません」
『謝ってばかりだな、梓は』
澪先輩が小さく笑ったのが聞こえた。
私も苦笑する。『それじゃあ、また明日』
最後に澪先輩の優しい声が聞こえて、電話は切れた。
携帯をパタンと閉じると、大きく息を吐いた。
何も緊張することなかったんじゃん、と自分に呟いてみる。
明日までに何か一つでも歌詞書いとかなきゃ、と私は机に向かった。
何だか、ひどく清清しい気分になっていた。
――――― ――
17 :
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(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:15:07.74 ID:iCVRijr50
翌日、雨で少し濡れてしまった鞄を下駄箱で拭いていると、「おはよう」と声がした。
澪先輩だった。
その後ろで、律先輩がたぶんクラスメイトだろう、誰かにちょっかいをかけていた。
律先輩の性格だからクラスでもきっと友達が多いんだろうな、とぼんやり思ったまま、わたしは澪先輩に頭を下げる。
「おはようございます」
「早速なんだけど、今日の昼休み、どうかな?歌詞のこと色々話したいし」
「あ、はい!」
放課後じゃもう遅いだろ?と澪先輩が笑う。
そうだった。律先輩は今日発表と言っていたっけ。
そう言った当の本人はまだ澪先輩の後ろでふざけている。
「じゃあ昼休み、部室開けてもらうから」
「わかりました」
澪先輩が私に軽く手を振り三年生の教室の方へと踵を返した。
律先輩が慌てたように追いかけていく。
一瞬、律先輩が珍しく私に何も言わず行っちゃうのかと思ったとき、やっぱり律先輩は律先輩で、「あ、おーっす、梓!」と大きく手を振られた。
何となくほっとして、私は手を振る代わりにぺこりと頭を下げた。
――――― ――
18 :
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(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:15:57.93 ID:iCVRijr50
昼休みの部室は朝から続く雨のせいでじとじとと湿っぽかった。
「私も行く~」とうるさい純を諭していたせいで、遅くなってしまったかも知れない。
お弁当と筆記用具を持って中に入ると、なぜか澪先輩ではなく律先輩の姿があった。
「よっ、梓」
「澪先輩についてきたんですか?」
「まあなー、私部長だし」
「関係あるんですか、それ」
「あるさー、部室の鍵の管理は部長の使命だからな!まあ鍵をかけたりするのは私の役目じゃないけど」
それこそ部長の役目じゃないですか、と頬を膨らませると、律先輩はハハハッと笑って「まあ座れって」と椅子を叩いた。
19 :
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(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:16:49.55 ID:iCVRijr50
「言われなくても座りますよ」
「こわーっ、言うようになったなあ」
「あっ……すいません」
「いや、良いんだよ。なんか嬉しいし」
「嬉しい、ですか」
どうして。
そう聞きかけたとき、部室の扉が開いて澪先輩たちが入ってきた。
――澪先輩たち。
なぜか唯先輩、そしてムギ先輩もいた。
「先輩!」
「ごめんな、梓。昼休み部室でお弁当食べるって言ったらみんなついてきて」
「まったくー、これじゃあ意味ないだろー」
「お前が言うなお前が」
私は申し訳なさそうな澪先輩に、
どうしてだか今にも笑いそうなのを堪えて首を振った。
「構いませんよ、内緒にすることじゃなかったですし。ただ、いつもの部活と変わらない気がしますけど……」
「大丈夫、あずにゃん!私たち邪魔しないって~」
「頑張る梓ちゃんのためにお茶淹れるからね~」
逆に不安になってきます、ムギ先輩のお茶のことは置いといて。
20 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:17:47.55 ID:iCVRijr50
けれど、まあいいか。
みんながいない部室より、先輩たちが皆いる部室の方がきっと楽しい。
こんなこと、昔の私ならきっと思わなかっただろうけど。
「それより唯先輩は何か書いてきたんですかー?」
「ふふっ、私はなんと!たーくさん!」
「えぇ、唯ちゃんすごーい!」
「どうせ憂ちゃんとかに手伝ってもらったんだろー」
もう少し、律先輩と二人だけならまた前のようにセッションできたかも知れないのに。
なんて思うのは私のわがまま。
「じゃあ梓、始めよっか、とりあえず」
澪先輩の声。
私は「はい!」と元気良く頷いた。
◆
21 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:18:52.95 ID:iCVRijr50
『誰に何を伝えたいのかを決めて、それを絞り込む』
伝えたいこと、思うこと。
誰に何を。
『それで、まず最初に思い浮かんだフレーズから始めてみる』
思い浮かんだフレーズ。
ふわふわ時間……。
いや、これはだめでしょ絶対。
「あぁ、思いつかない……!」
私は澪先輩に教わった“歌詞の作り方”を書いたメモと、まだ一文字も書いていないシャーペンを放り投げると机に突っ伏した。
昼休み、放課後とずっと頭を捻るもやっぱり何も浮かばない。
やっとの思いで完成させた歌詞だって、律先輩に一刀両断されたわけで。
トンちゃんの歌詞の何がいけなかったんだろう?
まあいけないのはいけないとわかっているのだけど。
結局、放課後も誰の何の歌詞にするか決まらなかった。
律先輩は案の定ふざけた駄洒落しか書いてこなかったし、唯先輩も唯先輩で『ごはんはおかず』など微妙な歌詞ばかり。ムギ先輩に至っては歌詞ですらなかった。
22 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:19:44.04 ID:iCVRijr50
それでまた後日、となったのはいいのだけど、私の足りない頭はこれ以上言葉を探すことは出来ないらしい。
今日はもう眠ろうかな、そう思ってノートを閉じたとき、
突然携帯が震えだした。
「唯先輩?」
またいつものどうでもいいような話だろうか。
そう思って電話に出た後、私はすぐに家を飛び出した。
――『どうしよう、風邪引いちゃったあ……』
◆
23 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:20:59.36 ID:iCVRijr50
「えっ、風邪引いたのは憂!?」
息を切らせ唯先輩の家へ辿り着いた私は、怒るのを通り越して呆れてへなへなとその場に座り込んでしまった。
唯先輩から今にも死んでしまいそうな電話があったから急いで駆けつけてきたというのに。
しかも、全員に同じ電話をかけたらしく、軽音部全員がその場にいた。
律先輩なんて寝巻き姿。
ドジなのか、ただ心配だったのか。律先輩はどっちもありそうだ。
「まあ憂ちゃんでも大変なのは大変だよな……」
「どうしよう~」
唯先輩はおよおよと弱弱しく律先輩に縋りつく。
憂がベッドに寝転んだまま「大丈夫だよお姉ちゃん、私がついてるから」と声をかけた。
「憂が看病される側でしょ!」
起き上がりかけた憂を思わず手で押さえつける。
憂は熱のせいで力がないのか、すぐにベッドに戻った。
24 :
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[sage saga]:2011/11/23(水) 23:21:51.51 ID:iCVRijr50
今日、教室で一緒に居たとき憂が体調悪いことにどうして気付いてあげられなかったのか。
歌詞のことで精一杯だった自分が嫌になる。
些細なことでも気付いてあげられるのが友達なのに。
「う、憂!ごめんね私!一人で大丈夫だよ!」
憂の様子を見た唯先輩が、慌てたようにそう言って憂に駆け寄った。
唯先輩も唯先輩で、なんだかんだ言ってもちゃんとお姉ちゃんなんだ。
兄弟のいない私には少しだけ平沢姉妹が羨ましい。
それに、いつも頼りなさげな唯先輩が途端に頼もしく見えるんだから、そんな姿を見られることも、少しだけ。
「じゃあ私たち帰るな」
律先輩が立ち上がると言った。
私たちも立ち上がり、玄関へと向かう。唯先輩は「えぇ」と声を上げかけたものの、すぐに「憂、大丈夫だからね」と言って憂の手を握った。
「また何かあったら電話してね。すぐに来るから」
「ありがとう、ムギちゃん、みんなも!」
25 :
VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(新鯖です)
(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:23:00.47 ID:iCVRijr50
唯先輩の家を出ると真っ暗な秋の夜は流石に少し肌寒くて、私は少しだけ身震いした。
隣を歩いていた律先輩が「寒いなあ」と呟く。
「律先輩が一番寒そうですよ」
「仕方ないだろ、テンパってたんだから」
澪先輩とムギ先輩は少し前に別の道から帰って行った。
本当は律先輩も澪先輩と同じ道を帰るはずだったのに、「一人じゃ寂しいだろうし」と私の家まで着いて来てくれていた。
「去年みたいに風邪引かれたら困りますもんね……」
「本当に。でも唯って結構頼り甲斐あるだろ?あんな風だけど」
「そうですね……。唯先輩、ていうか憂にも悪いけど吃驚しちゃいましたよ」
唯先輩の頼りなさは間違いなく憂が関係しているのだろうけれど、唯先輩の優しい歌声も憂に関係しているのかも知れない。
「見直しちゃいました」
26 :
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(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:23:47.96 ID:iCVRijr50
「そっか」
私が言うと、律先輩は一瞬、私に視線を向けるとすぐに夜空を仰いで頷いた。
その横顔が少しいつもと違うように見えたのは気のせいだろうか。
私はそんな思いを振りきるように律先輩を真似て空を見上げてみた。
夏休みほどではなかったが、澄み切った夜空がひどく綺麗に見えた。
◆
律先輩と別れてから、私は突然思い立って机に向かっていた。
時計の針の進む音と、私がノートに走らせるシャーペンの音しか聞こえない。
もう夜もだいぶ深まっていた。
思い浮かんだフレーズ。伝えたいこと。思ったこと。
一つ一つ、丁寧に繋ぎ合わせていく。澪先輩や他のミュージシャンに比べればひどく拙い歌詞だけれど。
「できた……」
書き終えたものをもう一度読み直すと、私は大きく息を吐いた。
27 :
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[sage saga]:2011/11/23(水) 23:24:33.81 ID:iCVRijr50
夏休み、夜空、輝く星、繋ぐ、手、キーワードもぐちゃぐちゃで。
伝えたいことも山ほどあって。
それでもなんとか書き終えたその歌詞は、我ながら傑作じゃないかと思う。
明日、先輩たちに見せたらどんな反応をするだろうか。
そんなふうなことを考えながら、私は安堵の意味で机に突っ伏した。
――――― ――
28 :
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(関西地方)
[sage saga]:2011/11/23(水) 23:26:35.91 ID:iCVRijr50
「すごい、これ本当に唯が書いたのか!?」
「へへっ、頑張ったよー」
次の日の放課後。
澪先輩や他の先輩たち、もちろん私をも驚かせたのは私の書いた歌詞ではなく、唯先輩の書いたものだった。
『U&I』
タイトルも凄くて、内容も伝えたいことを直球に書いてあって。
きっと曲にしたら凄くいい曲になるはずだ。
「なら歌詞は唯ので決定かー?」
「梓ちゃんはどう?」
ムギ先輩がお茶のお代わりを私の前に置きながら訊ねてきた。
私は鞄の中にひそませてあるノートの内容を思い出し、慌てて首を振る。
冷静に考えれば恥ずかしいことしか書いていないし、とても先輩方に見せられる内容なんかじゃない。
「私は、まだ何も考えてないので……」
そう言って、私はそっと手に持っていた紙切れを机の下に隠した。
29 :
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(関西地方)
[saga]:2011/11/23(水) 23:27:43.96 ID:iCVRijr50
今日の投下は以上
これからゆっくり進めていきます、ではまたいつか
30 :
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(長屋)
[sage]:2011/11/24(木) 02:21:09.13 ID:ns4mpbyAo
おおうこっちに来てた
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