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神崎蘭子「白馬に乗ったお姫様」 -
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1 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/04/29(水) 23:56:37.47 ID:C0jyZbfZo
「ふわぁあ……」
すごい。すごい。
すっごいです!
「おーい、蘭子ちゃーん。置いていかないでくれよー」
「あ……ご、ごめんなさいっ」
「蘭子。そのブーツで走ると危ない、です」
気付いたら、プロデューサーとアーニャちゃんを置いてっちゃってました。
「はは、まぁ気持ちは分かるけどねぇ。こんな所来たらはしゃいじゃうよなぁ」
「此れは逸り等ではない! 我が身が高揚に耐えかねただけよ!」
(は、はしゃいでないです! ちょっとウキウキしてるだけで)
「蘭子。それ、一緒です」
プロデューサーが手で顔を扇ぎながら笑います。
……はしゃいでないもん。
「アーニャちゃんはどうだい? やっぱりワクワクしてるかな」
「ダー。私もドキドキ、してます」
「いやーやっぱりアーニャちゃんは落ち着いてるなぁ。お姉さんだなぁ。なー蘭子ちゃん?」
「むー-!!」
「はっはっは」
SSWiki :
http://ss.vip2ch.com/jmp/1430319387
1.5 :
荒巻@管理人★
(お知らせ)
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もし、探しているスレッドがパートスレッドの場合は次スレが建ってるかもしれないですよ。
もしもワンピースがアラバスタ編で完結してたら @ 2025/04/10(木) 04:05:42.93 ID:0BTpsf2AO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1744225542/
機動戦士Necoジークアクス @ 2025/04/09(水) 21:12:34.78 ID:7+Ev+rnRO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1744200754/
捨て猫 @ 2025/04/09(水) 18:03:41.50 ID:qlT5qs1WO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1744189421/
【シャニマス】ベジータ「ア、アルストロメリアだと………!」【ドラゴンボール】 @ 2025/04/08(火) 21:21:00.94 ID:ch+GxRTZo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1744114860/
どけ、馬鹿ども @ 2025/04/08(火) 17:50:19.05 ID:ZpOcDfR4O
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aa/1744102218/
=^・ω・^= ぬこ神社 Part127《ぬこみくじ・猫育成ゲーム》 @ 2025/04/08(火) 15:05:35.64 ID:ORnLfiWxO
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/part4vip/1744092335/
”巨大”とは感動である @ 2025/04/08(火) 01:19:24.07 ID:lXIr96Fs0
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1744042763/
イキスギ龍戦隊 トコロテンリュウチャーン @ 2025/04/07(月) 23:14:15.12 ID:Wirs8NLuo
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/aaorz/1744035254/
2 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/04/29(水) 23:59:31.79 ID:C0jyZbfZo
プロデューサーはいっつも私の事を子供扱いします。
私だってもう高校生なのに。もうっ。
「さて、挨拶に遅れちゃマズいからね。行こうか」
「うむ」
(はーい)
「後でゆっくり、見られますから」
アーニャちゃんの言う通り、後でじっくり見させてもらおうっと。
でもやっぱり、ちらちらと目を向けちゃいます。
「……すごいなー」
満開の桜の樹の下を。
お馬さんと騎手さん達が、かっぽかっぽとお散歩していました。
3 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/04/30(木) 00:01:05.60 ID:z08T0Kvao
黒衣の騎士こと神崎蘭子ちゃんと、白雪の姫君ことアナスタシアちゃんのSSです
前作とか
高垣楓「一線を越えて」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428818898/
)
こっちはあんま関係無い
岡崎泰葉「あなたの為の雛祭り」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425633517/
)
こっちのちょっと後
蘭子は猫を飼っています
アニャ蘭ください
4 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/30(木) 00:44:24.84 ID:LAtJwB9DO
グリフォンだっけ、蘭子ちゃんが拾ってきたの?
5 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/04/30(木) 00:44:48.23 ID:z08T0Kvao
― = ― ≡ ― = ―
「騎士の輩!?」
(お馬さん!?)
「ローシュドゥ……馬、ですか」
蘭子が勢い良く椅子から立ち上がると、膝の上でお昼寝をしていたグリフォンが転がり落ちました。
眠そうに顔を拭うと私の膝へ飛び乗って来て、すぐに目を閉じます。
「乗れるの!?」
「その話をしようって事だよ。さぁ、座ろうか」
「うむ!」
(うんっ!)
椅子に座り直した蘭子の膝に、グリフォンをそっと乗せました。
蘭子が背を撫でると、グリフォンが満足げに喉を鳴らします。
「さて雛祭りも終わって、来月から新年度が始まる訳だけど」
「新たなる舞台の幕開けよ」
(私も高校生です!)
「蘭子ちゃんももう女子高生かー…………そうかぁ……」
「怯えが仮面を透けて視えるぞ」
(プロデューサー、何でちょっと不安そうなの?)
「これが資料なんだけど」
蘭子の言葉を流して、プロデューサーから資料を手渡されます。
十数ページの紙束の表紙。
その一番上には強調された一文が書かれていました。
6 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/04/30(木) 01:19:15.88 ID:z08T0Kvao
>>4
Yes、よくご存じで
一応貼っておきますね
アナスタシア「可憐なる魔獣」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416053247/
)
7 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/04/30(木) 01:20:51.21 ID:z08T0Kvao
「……『迎えに行こう、』」
「『王子様を。』……ですか?」
「ああ。テレビ番組とかも含めた結構な大型企画なんだけど、ずばりテーマは」
プロデューサーが、指を立ててニヤリと笑います。
「『次世代のシンデレラ』だからね……ああ、今回はニュージェネは関係無いよ」
シンデレラ。
蘭子がなって、私がまだなれていない目標。
「今回の企画では馬に焦点を当ててるんだ。浜川さんは知ってるかな」
「乗馬が上手……でした、ね?」
「彼女を中心に何人かがイギリスまでロケに行く予定でね」
「騎士共の聖地か」
(乗馬の本場ですよね)
「で、こっちの撮影は歴代シンデレラガールの誰かがやろうって話だったんだ」
「それで、蘭子を?」
「渋谷さんは多忙なんで辞退。十時さんの担当と俺が手を挙げたんだけど」
ちらりと私を見て、すぐに視線を戻して。
プロデューサーがぺらぺらと資料を捲ります。
「何とか勝ち取って来たよ」
「下僕よ、褒めて使わすぞ」
(すごいです!)
「絶対逃したくない企画だったからね。いやぁ彼も手強かった」
8 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/02(土) 00:00:14.73 ID:km6R9n53o
「それで、何をするんでしょう」
「このページに載ってるけど、日馬協と合同の企画なんだ」
「にちばきょー?」
「ロシア語、じゃないですね」
「日本馬術協会。公式大会とかも開いてる組織だよ」
プロデューサーがタブレットでウェブサイトを表示します。
トップページには、コースを駆ける馬の写真が載っていました。
「本当はね」
「む?」
「馬術の盛んな北海道でロケしたかったんだけど、予算の都合で都内になったんだ。ごめんなアーニャちゃん」
「アー、その気持ちだけでとても嬉しい、です。バリショエスパシーバ、プロデューサー」
「今度の里帰りには親御さんに手綱捌きを見せてあげてな」
両親の前で馬に乗る私を想像します。
駆けて、回って、跳ねて。
……ワクワク、してきました。
「日本組の内容は三つ。一つは馬術の公式競技出場、およびそれを取材した番組撮影」
「匣中の戯れを?」
(テレビ番組?)
「うん。土曜昼の番組で五週、特集の枠を取ってもらったんだ」
「すごいです、プロデューサー」
「まぁスポンサーが……っと、つまらない話はやめとこうか。もう一つはポスターなんだ」
9 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/02(土) 00:56:26.23 ID:km6R9n53o
「写し身か」
(ポスター撮影ですか)
「馬と一緒の写真でね。乗馬の普及目的で駅とかに貼るらしい」
「定められし儀式か?」
(ポーズの指定とかあるんですかっ?)
「ポーズ? いや特には。現場の指示で…………あー」
蘭子の輝く瞳を見て、プロデューサーが察したように頬を掻きます。
しばらく腕を組んで悩むと、ふっと息を吐きました。
「……うん、いいよ。スタッフさんには言っとくから、『汝が魂の赴くまま』にやってみてくれ」
「やったぁ!」
グリフォンを抱えたまま、蘭子が笑顔でぴょこぴょこジャンプします。
胸に抱えられたまま、だいぶ迷惑そうな顔をしていました。
「最後の一つは、何ですか?」
「あぁ、それは」
そう訊ねると、プロデューサーは私をじっと見つめました。
その視線に首を傾げると、ふっと笑みを零して。
「アーニャちゃんが今回参加する理由もだけど……まだ秘密にしておこうか」
「禁呪の理は解き明かされん」
(えー! 秘密、教えてくれないの?)
「秘密、ヒミツ。まずは撮影からね」
10 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/02(土) 13:30:23.41 ID:km6R9n53o
「まぁ良い。何れ刻も来たらん」
(むー、気になるねー)
「ニャ」
やっぱりグリフォンを抱えたまま、蘭子がソファの上をころころと転がります。
そしてふと気付いたように起き上がりました。
「アーニャちゃん、お馬さんに乗った事あるの?」
「ニェート。お祭りで見た事はありますが、乗った事はまだ無いです」
「ふむ……魔獣よ、どうだ?」
(グリフォンは?)
「ナー」
「無いって」
「じゃあ、一緒に練習、しましょう」
「なぁ、二人とも」
「何ですか?」
「…………猫って、馬に乗れるのか?」
グリフォンがあくびをして、私の膝でまた眠り始めました。
11 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/02(土) 16:44:21.08 ID:km6R9n53o
― = ― ≡ ― = ―
「初めまして、CGプロから参りました。暫くの間、宜しくお願い致します」
「はい、こちらこそよろしくお願いね。可愛らしいお嬢さん方と……こちらはお坊ちゃんかしら」
プロデューサーが名刺を差し出したのは、優しそうなお婆ちゃんでした!
ニコニコの笑顔でしゃがみ込んで、グリフォンの顎を撫でています。
「この方がお世話になる先生だよ。さ、二人とも自己紹介を」
「ククク……我が名は神崎蘭」
「……蘭子ちゃん。最初だけは?」
「……はっ! あの、えっと……神崎蘭子、です……よ、よろしくおねがいします」
「ミーニャ ザヴ……アナスタシア、です。こっちはグリフォン、です」
「まぁまぁ皆さん可愛らしい事。でも、ウチの仔達も負けませんからね」
お婆ちゃんが立ち上がって歩き出しました。
乗馬用の服が似合っていて、背筋がぴんと伸びていて……か、カッコイイ!
「びっくりしたでしょう、こんなおばあちゃんで」
「古強者の背に見る物もあろう」
(そんな事無いです!)
「古強者……? よく分からないけど、褒められちゃったわ」
「すみません、神崎はこういう喋り方でして……」
「アナスタシアさんも、生まれは海外?」
「ダー。アーニャでだいじょぶ、です。ロシアで生まれました」
「両手に華で羨ましいですねぇ、色男さん」
「よしてください。私は只のPですよ」
12 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/02(土) 17:38:05.31 ID:km6R9n53o
「ぴぃ……?」
「あー、界隈の用語と言いますか」
首を傾げるお婆ちゃんに、プロデューサーが笑って頬を掻きます。
業界用語っていうやつだよね!
「プロデューサーの事です。ディレクターをDと呼んだりもしますね」
「なるほど」
お婆ちゃんが手を打って、それから思い付いたように言いました。
「なら私はJですね」
「はっ?」
「ジョッキー。騎手を……日本だと競馬の乗り手を指す事が多いですが、そう略すんですよ」
「アー、Jさん、ですね」
「あら、これで私もぎょうかいじんかしら?」
Jさんがふふっと笑います。
略称かー、カッコイイなー。
私はアイドルだから……I? うーん、カッコイイ、かなぁ……?
「さ、着きましたよ」
「……わぁっ」
「まずは着替えて……ふふっ、これは聞こえていなさそうねぇ」
馬。ウマ。うま。
黒いお馬さんや茶色のお馬さんが、草を食べたり寝転んだりしてます!
すごい! こんなにたくさんのお馬さん、初めて見ちゃった! すごい!
13 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/02(土) 19:23:51.85 ID:km6R9n53o
「蘭子。着替え、行きましょう」
「うん」
「……蘭子?」
「うん……もうちょっと……」
「Pさん。先に確認だけ、しといちゃいましょうか」
「……すみません。お手数、お掛けします」
……あれ。着替えたら、実際に乗れるんだよね?
そう気が付いて慌てて着替えに向かったのは、しばらく経ってからでした。
14 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/02(土) 20:14:43.86 ID:km6R9n53o
― = ― ≡ ― = ―
「纏いしは聖なる衣ぞ!」
(プロデューサー! 似合ってる!?)
「うん、バッチリだ。でも」
「む?」
「申し訳無いが、アーニャちゃんがハマり過ぎててなぁ……」
「……た、確かに」
「そうですか?」
キュロットにブラウス、乗馬ブーツとヘルメット帽。手袋をして、鞭を持ちます。
やっぱり、普段着れない服を着れるのは嬉しいですね。
「まぁまぁ。ひょっとして貴族の出かしら?」
「ニェート。パパとママはとっても普通の人です」
「では、撮りまーす」
「あ、ごめんなさいね。ちょっとお待ちを」
カメラマンさんが写真を撮ろうとして、Jさんが声を掛けました。
どうしたんでしょう。Jさんも写りたいんでしょうか。
そう考えているとJさんが蘭子の目の前までやって来て、ヘルメットを脱がしました。
「素敵な髪型ですね」
「髪は魔力の源なれば」
(ありがとうございます!)
「もっと素敵な髪型があるんだけど、試してみません?」
「……! うんっ!」
いつもの蘭子の髪型を解いて、Jさんが丁寧に髪を纏め直します。
二人とも銀髪で、同じ乗馬服を着て。
まるで、お婆ちゃんとお孫さんみたいでした。
15 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/02(土) 21:50:50.68 ID:km6R9n53o
「はい、出来ました」
「これは……」
蘭子が手鏡の中の自分を見つめます。
結われた髪をおっかなびっくり触って、後ろに居たJさんを見上げました。
「ポニーテール?」
「そう、馬とお揃いですよ。乗るのはポニーではありませんけどね」
「おお!」
帽子を被り直して、飛び出た尻尾を蘭子が嬉しそうに触ります。
目の前でぴょこぴょこ揺れるのに我慢出来なかったんでしょうか。
グリフォンが蘭子の新しい尻尾をぱしぱしとはたいています。
「魔獣よ! 反逆の牙を向けるか!」
(ぐ、グリフォン! やめてー!)
「しっぽ仲間が増えて嬉しそうですねぇ」
「私の髪ももうちょっと、ダルガ……長ければ良かったです」
「伸ばしてみるのも良いかもしれないね……で、そろそろいいかな?」
「ああ、邪魔してごめんなさいね。さぁ二人とも、撮ってもらいましょう」
「ダー」
「ククク……刻は満ちた!」
(準備おっけーですっ!)
そして写真を撮ってもらっていると、後ろから聞き覚えの音が聞こえてきました。
蘭子と一緒になって振り向くと。
「きれい……」
Jさんが、真っ白な馬に乗ってやって来ました。
16 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/02(土) 22:56:22.28 ID:km6R9n53o
「どう? ウチの仔も負けていないでしょう」
「観賞用の馬……ではないんですよね」
プロデューサーが驚きながら訊ねます。
「ええ。きちんと障害飛越の訓練を受けていますよ」
「ショーガイ……?」
「まだ聞いてなかったかしら。お二人にやってもらうのは障害飛越。要はハードル走ですね」
「馬に乗って、棒を飛び越す……ですか?」
「そうそう。呼吸を合わせるのが大事よ」
Jさんが白馬の横顔を撫でます。
気持ち良さそうに、その手へ顔を擦り付けていました。
「名前は白雪。5歳と半年の女の仔です」
「白雪……なれば、灰被りも?」
(白雪姫が居るなら、シンデレラもいるの!?)
「灰被り…………は残念ながら居ませんねぇ」
「そっかぁ……」
「Jさん、説明をお願いします」
Jさんが白馬の背から降りました。
軽やかな身のこなしで、ぜんぜん年齢を感じさせません。
「一月後に障害飛越の公式大会に、お二人には団体のメンバーとして参加してもらいます」
「荘厳なる式典か。我が身で足るのか?」
(公式大会!? だ、だいじょぶかなぁ……)
17 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/03(日) 00:09:44.95 ID:aAVeHPZ4o
「それほど堅い競技会ではないので心配ありませんよ」
「ナチナユシー……初心者でも大丈夫でしょうか」
「ちゃんと練習すれば、一月後に130cmは跳べるように教えますからね」
「しばらくはライブとかの仕事も入れてないから、学校帰りに練習出来るよ」
130cm……蘭子の背よりちょっと低いぐらいです。
私も蘭子も馬に乗った経験は一度もありません。
跳べるように、なれるでしょうか。
「あ、あのっ!」
「はい、どうしました?」
「……乗ってみても、いい?」
「ああ、そうですねぇ。まずは話すよりも実際に乗ってみましょうか」
「やった!」
Jさんに見守られて、蘭子が馬へ駆け寄ります。
支えられながら、白雪に恐る恐る触れました。
「ここは鐙って言ってね」
「ふむ」
蘭子が馬具に脚を掛けて、背中へと上がって、そのまま向こう側へ滑り落ちました。
べしゃっ。
「あうっ」
18 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/03(日) 00:16:34.09 ID:aAVeHPZ4o
蘭子が地面に俯せになったまま、誰も、グリフォンさえも口を開きませんでした。
起き上がった蘭子が、不思議そうな顔で白雪を見上げます。
「……む?」
「Pさん」
「はい」
「蘭子ちゃん、運動神経の方は」
「……ダンスは、どちらかと言えば不得手な分野ですね」
「一月あります。全力を尽くしましょう」
「ひゃあっ! か、顔は舐めないでー!」
蘭子が白雪に顔を舐められて、小さく悲鳴を上げていました。
19 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/04(月) 13:59:34.51 ID:zsuSUXgVo
― = ― ≡ ― = ―
「ふへー……」
つ、疲れました。
何とか落ちずに白雪へ乗る事が出来るようになったけど……。
アーニャちゃんはもう、ゆっくりだけど走る練習を始めてます。
私も早く追い付かないと!
「ふにゃー……」
でも今はちょっと休憩中。
柵に身体ごともたれ掛かって、地面に出来たアリさんの行列を観察中です。
細長い列を眺めていると、視界の端に黒い棒が突き立てられました。
太い棒は四本あって、よく見ると棒ではなくて。
――ぶるる。
「……?」
顔を上げて、足りなくて。
見上げても、まだ足りなくて。
もっと見上げると、ようやく頭が見えました。
「ニャッ」
「お……おお…………!?」
とってもとっても大きな、黒い馬。
その頭の上から、グリフォンが顔を出しました。
…………グリフォン、乗ってるの!?
20 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/04(月) 14:36:20.83 ID:9QD/A4KKo
らんらん…
21 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/04(月) 15:11:44.25 ID:zsuSUXgVo
「フハハ! 流石は我が血族」
(グリフォン、すごーい!)
「ミー?」
おっきくて、強そうで……すっごくカッコイイお馬さん!
グリフォンが乗れるなら、私も乗せてくれるかな?
「ブーケ。蘭子ちゃんの髪を噛んではいけませんよ」
「無垢なる花束?」
(ブーケ?)
Jさんがそばにやって来て、私の頭に手を置きました。
……お、美味しくないよ。藁の方が美味しいよ!
「体躯にそぐわぬ可憐な名よ」
(かわいい名前ですね)
「そう? アレキサンダーの愛馬から取ったのですけど。ブーケファラスと言う馬でして」
むしろカッコいい名前でした!
「先達よ」
(Jさん)
「何かしら?」
「あの、えっと…………私、ブーケと大会に出てみたい、です……」
「うーん……確かにこのコとなら160cmだって跳べるでしょうけれど――」
22 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/04(月) 16:27:44.57 ID:zsuSUXgVo
― = ― ≡ ― = ―
「あの二人、どこまで休憩に行ったんだろうなぁ」
「だいじょぶ、です。この仔の背中からなら、遠くまで良く見えます」
なかなか戻って来ない蘭子たちを探しに、練習を兼ねて白雪へ乗って散歩します。
いつもより身長が高くなったみたいで、バランスを意識しないと転んでしまいそうです。
「あっ」
「お、居たかい……って何だあのデッカい馬は。ばんえい用の馬かな」
「でも、蘭子が乗ろうとしてますね」
二人の所へ歩いて行きます。
その間に蘭子が大きな馬によじ上って。
危なっかしく跨がって。
こちらに笑顔で手を振って。
後ろ脚を跳ね上げた馬に振り落とされました。
ぼてん。
「――じゃじゃ馬なんですよ、このコ」
Jさんの困ったような顔に。
地面で仰向けになったまま、蘭子が涙目で頷きました。
23 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/04(月) 18:15:28.17 ID:zsuSUXgVo
― = ― ≡ ― = ―
「…………」
「つん」
「ひぅっ!」
「…………」
「…………」
「えい」
「ひやぁっ!」
「……♪」
「楓。蘭子をいじめちゃ、めっ、です」
「ごめんなさい。可愛くて、つい」
「ダー。それは分かります」
「姫君共! 戯れも足るを知れ!」
(二人ともっ!)
今までで一番の、もうよく分かんないくらいすごい筋肉痛です。
昨日は何ともなかったのに、今日一日練習したら動けなくなっちゃいました。
事務所のソファの上でアザラシみたいに寝転んでいる私を、楓さんが容赦なくつっついてきます。
とっても楽しそうです。
……むー!
「蒼の灰被りよ……亡国の危機に救いの剣を……」
(り、凛ちゃーん……たすけてー……)
「普段出歩かないからだよ。たまにはレッスン以外でも運動してみたら良いんじゃない?」
「そんなぁ……」
みんなクールです。冷たいです!
24 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/04(月) 19:16:12.24 ID:zsuSUXgVo
「――はっ? いえ、あの、どういう事でしょうか」
受話器を持ったまま、突然プロデューサーが驚いたような声を上げました。
「いや、Jさんは分かるんですが。団体競技と言ったって、私は一般――」
話に夢中になっているプロデューサーに、楓さんが後ろからそっと近付きます。
電話機の本体を静かにこちらへ寄せると、スピーカーボタンを押しました。
『――の人数が4名なので、Pさんを登録しておきましたよ。では確かにお伝えしましたので』
「あ、ちょ」
ぶつん。
そこで通話が途切れて、プロデューサーが口を開けたまま固まってます。
えーと、つまり。
「冥府の暗きも、共に歩まば恐るるに足らず!」
(プロデューサー! いっしょにがんばろっ!)
「……やられた」
次の日から一匹、事務所にアザラシ仲間が増えました。
25 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/05(火) 15:43:28.79 ID:OcX/evJ7o
― = ― ≡ ― = ―
がらん、がらん。
「わぷっ」
ブーケの蹄が、またバーを引っ掛けてしまいました。
着地につんのめった蘭子の小さな鼻が、ブーケのたてがみにぶつかります。
「休憩にしましょうか、蘭子ちゃん」
「是非も無し……」
(うん……)
ちょっとだけ元気の無い声を返して、蘭子がブーケから降ります。
もう落ちたりする事はありませんが、バーを飛び越えるのには苦戦していました。
蘭子がとても頑張っているのは、いつだって見ています。
でも、なかなか上手く行かないと、どうしても弱気になってしまって。
「むむぅ」
「蘭子……」
「蘭子ちゃん。アーニャちゃんも」
声を掛けようとすると、Jさんが私の肩に手を置きました。
そして、お茶目なウィンクを一つ。
「ちょっと、お話しましょうか」
26 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/05(火) 16:28:02.80 ID:OcX/evJ7o
― = ― ≡ ― = ―
「おお……」
「色んな馬が、居ますね?」
「ええ、情報交換の為のような場所です。会議室に馬を連れ込むのは難しいですからね」
広場には、十何頭ものお馬さんと、同じくらいの騎手さん達が居ました!
白い馬や、茶色の馬。同い年くらいの女の子に、白髪混じりのおじさんも。
「お二人はアイドルで、シンデレラ……と言うのを目指しているのですよね?」
「如何にも」
(はい!)
「ダー。蘭子は、凄いです」
「知ってるかしら。馬にもね、裸足のシンデレラ、って呼ばれてたコが居たんですよ」
……!
お馬さんなのに、シンデレラ!?
「競走馬でしてね。蹄鉄を落としたまま走ったの」
「……フフッ。ガラスじゃなくて鉄の靴、ですね?」
「闘争の果ては?」
(結果はどうなったんですか?)
「はて、どうだったかしら……少なくとも、魔法が解けてポニーになったとは聞いていませんね」
Jさんの話に、アーニャちゃんと二人して大笑いします。
おっちょこちょいのシンデレラさんだなぁ。
27 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/06(水) 14:28:58.62 ID:dKqzDj9xo
「それはもう、色々な馬が居るんですよ。私は馬には詳しいと思っていますが」
Jさんが、私達に優しく笑いかけます。
「アイドルには疎くて。Pさんの方がよっぽど詳しいでしょう」
「偶像の世界は万華鏡の如し」
(アイドルにも、色んな人が居ます!)
「乗馬も、たぶんアイドルも、他の何かであっても。とても大切な事があると、私は信じています」
「ヴァーシュナ……大切、ですか?」
「ええ。知ろうとする事、ですよ。素人考えかもしれませんが」
なんだろ、どこかで聞いたような……?
「ウマが合わない、という言葉はご存じかしら」
「アー……仲が良くない、ですか?」
「ええ。私はこの言葉があまり好きではないんです」
「何故にか」
(どうして?)
「だって、こんなに色んな馬が居るんですもの。みんなと仲良くなった方が、とっても素敵じゃありません?」
確かにそうかも。
ウチの事務所でもまだお話した事の無い人が居るけど、きっとみんな面白い人ばかりです!
「そういう意味で、騎手は二種類の人にわかれます」
「二種類?」
「『乗せてもらう』人と、『乗りこなしてやる』人ですね」
「乗りこなして……」
「お二人はとっても優しい娘ですから、前者ですね。私は後者ですが」
「む、真か?」
(そうかなぁ?)
28 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/06(水) 16:06:08.79 ID:dKqzDj9xo
いつもニコニコして、丁寧に教えてくれて。
Jさんもとっても優しい人だと思います!
あ。怒るとすっごく怖い、とか……?
「後者が乱暴者だと言う気もありませんが、私も昔はまぁ、色々あったのですよ」
「昔の話……気になります」
「ふふ、話すと長くなりますし、またの機会にしましょうか……ああ」
Jさんが照れたように笑います。
やっぱりとっても優しい表情です!
「歳を取ると、話が長くなっていけませんね。要は何が言いたいかと言いますと」
「ふむ」
「白雪とは逆に、ブーケは『乗りこなしてやる』人を好むんですよ」
「……ふむ?」
えっと、つまり。
色んなお馬さんが居て。乗る方には二種類の人間が居て。
と、言う事は。
「自信を持て、ってこと……?」
「その通り。蘭子ちゃんはとってもチャーミングなんですから」
Jさんが私の頭を撫でます。
何でみんな私の頭を撫でたがるんだろう?
「シンデレラを乗せられるなんて光栄だろうと。そう思って、ウマを合わせてみてはどうでしょう」
29 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/06(水) 19:25:35.43 ID:dKqzDj9xo
― = ― ≡ ― = ―
「――いいでしょう」
「や、やったぁ!」
大会本番3日前。
私も蘭子もプロデューサーも、何とかコースを完走出来るようになりました。
「良く頑張りましたね。本当にたったの一ヶ月で130cmを跳べるまでになるとは驚きました」
「……これだけみっちり練習すればどうでも上達しますよ。プロデューサーは馬に乗らないってのに」
仕事が溜まってしまって。
プロデューサーが乾いた笑いを零します。
大丈夫です。ちひろは優しいから、きっと気遣ってくれます。
「蘭子ちゃんも、よくブーケについて来られましたね」
「フフフ……今では我が忠実なる僕よ」
(とっても仲良くなりましたから!)
「あら、そうなのブーケ?」
「ブルル……」
「ふわ、わぁっ! ゆ、揺らさないでぇ!」
テレビカメラに向けてポーズを決めた蘭子が、身体を揺らすブーケにしがみつきます。
多分、この部分はカットされません。可愛いですから。
30 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/06(水) 21:07:12.54 ID:dKqzDj9xo
「ふうっ…………と、時に先達よ。そなたへの心配は無用か?」
(と、ところで! Jさんの方は練習、大丈夫なんですか?)
「アー。確かに、です」
一番最初、白雪に乗って1mくらいの柵を飛び越えて見せてくれたくらいです。
それからは馬に乗ってはいても、バーを飛び越える練習は見ていませんでした。
「皆さんの足を引っ張らないくらいには練習していますので、心配はご無用ですよ」
「その熟練の手腕、とくと見せてもらおうぞ!」
(楽しみー! お手本にさせてもらいますね!)
「俺も楽しみです。乗るのは白雪ですか?」
「いえ、私はブーケに。その方が白雪の負担も減るでしょうから」
「Jさん、ブーケに乗れる、ですか?」
「ええ。もういい加減なこの歳でも続けられるのは、乗馬の良い所ですね」
日本では、女の人に歳を訊くのはダメ、と聞いています。
でも蘭子がこっそり聞いた所、あなたの5倍はいかないくらいですね、と答えたそうです。
元気いっぱいなブーケに乗って、大丈夫でしょうか?
「それでは大会に備えてゆっくり休みましょうか」
「あ、カメラさん待って……まだポーズが……ブーケ、止まってー!」
のんびり歩いて行くブーケの背中で、蘭子が慌てています。
「……大会、大丈夫かなぁ」
「だいじょぶ、です。蘭子は本番に強いですから」
「ブーケ、お願いだからー!」
ゆっくりと遠ざかって行く蘭子とブーケの背中を、カメラさんがじっと写していました。
31 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/08(金) 20:01:46.54 ID:nM52Bqk+o
― = ― ≡ ― = ―
すごいです。
もう一生分のお馬さんを見たかなと思ってたけど、そんな事ありませんでした。
これだけ人やお馬さんが集まると、何だか大会と言うよりもお祭りみたいです!
「さぁ、皆さん準備は大丈夫ですか?」
中障害飛越競技B。
出場するのは15チームで、私達のチームは12番目。
乗馬クラブや高校馬術部のみんなの競技を見ている内に、あっという間に私達の出番になっちゃいました。
「アトリーシナ……だいじょぶ、です」
「もうやるしかないでしょう。俺の所、ちゃんとカットされるんでしょうね……?」
「宴の始まりよ!」
(バッチリです!)
ブーケの横顔を撫でます。
これだけ沢山の人や仲間に囲まれても、ブーケはとっても落ち着いていました。
『――続いて12番。団体名、チームシンデレラの皆さんです』
会場にアナウンスが響くと、ぎゅっと身体に力が入ります。
大丈夫。練習なら、動けなくなるぐらいいっぱいしたもん!
「それでは白雪とアーニャちゃん、お願いしますね」
「アーニャちゃんならリラックスすれば大丈夫だからなー」
「頑張ってね、アーニャちゃんっ!」
「ダー。いっぱい、がんばってきます」
アーニャちゃんがにっこり微笑んで、スタートの位置へ向かっていきます。
白雪が背を撫でられて、ぶるると鼻を鳴らしていました。
32 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/08(金) 21:17:48.63 ID:nM52Bqk+o
『一人目はアナスタシアさんです』
またアナウンスが流れます。
アーニャちゃんを知ってる人から歓声が上がって、シャッターを切る音も聞こえてきました。
うーん。やっぱりアーニャちゃん、カッコいいなぁ……いいなぁ。
「始め」
旗が挙がると、アーニャちゃんと白雪が滑らかに走り出します。
真剣な表情で……カッコいい…………白雪に跨がるアーニャちゃんは、本当に貴族の令嬢みたいでした。
「ヤッ」
最初の障害を綺麗に飛び越えました。
プロデューサーもJさんも私も、ただ見とれて拍手を送ります。
『現在競技中のアナスタシアさんは北海道の出身。乗馬競技は初めての――』
走っている間、アナウンスで紹介をしてくれるみたいです。
私もカッコよく紹介してもらえるかなぁ?
「ドー」
『記録は127秒、減点はゼロです』
そしてアーニャちゃんが無事走り終えました。
ベストタイムではなかったけど、バーに一度も引っ掛かってません!
「お疲れアーニャちゃん。良く跳べてたよ!」
「ええ。初めての大会とは思えませんでしたよ」
「アーニャちゃん、すっごくカッコよかった!」
「スパシーバ! 白雪のおかげ、ですね」
アーニャちゃんがとびっきりの笑顔を見せて、白雪の頬を優しく撫でます。
白雪も何となく嬉しそうに見えます!
「次は、プロデューサーです」
「うーん。アーニャちゃん達の顔に泥を塗らないように気を付けるよ」
プロデューサーが苦笑して、白雪に跨がりました。
33 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/08(金) 21:48:00.93 ID:nM52Bqk+o
― = ― ≡ ― = ―
『記録、119秒。減点は6です』
「あちゃあ……すみません、やっちまいました」
「いえいえ。思い切りが良くて、見ていて楽しかったですよ」
プロデューサーが、照れたように笑いながら白雪を降ります。
白雪もお疲れ様、ですね。
「ではJさん、お願いします」
「はい。大会に出るのも久しぶりですねぇ」
「先達よ! 我に導きの光を!」
(Jさん、お手本をお願いしますね!)
「まぁ。馬から落っこちないように気を付けないといけませんね」
Jさんがいつものようににこにこと笑いながら、ブーケとスタートの位置へ向かいます。
『続きまして3人目は――』
アナウンスでJさんが呼ばれると、会場がざわつき始めました。
カメラを鞄から取り出したり、慌てて休憩中の仲間を呼びに行ったりする人も居ます。
何でしょう。何か手違いでもあった、でしょうか?
「僕よ、これは一体何事か」
(プロデューサー、何か起きたの?)
「ん? いや、これから起きるんだよ」
「アー、Jさん、有名な選手でしたか?」
「あぁ、そっか。まだ話してなかったっけ」
プロデューサーが頬を掻いて、何か言いかけて口を閉じます。
Jさんの方へ向き直ると、私達もそちらを見るよう手で示しました。
「まぁ、見てれば分かるよ」
34 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/08(金) 22:32:40.92 ID:nM52Bqk+o
ぴんと背筋を伸ばして、Jさんが一礼します。
旗が挙がると、ゆっくりとブーケが走り始めました。
「……む?」
「どうかしましたか、蘭子」
「この凪のような静けさは……」
(なんだか、足音が静かだね)
「そう、ですね」
ととっ、ととっ。
蘭子の跨がるブーケの足音とは随分違っていました。
不思議がっている内に、最初の障害へ差し掛かります。
ドォンッ!!
「ひゃわっ!」
地響きのような足音に、蘭子が思わず身を縮めます。
私もプロデューサーも、身体がびくりと震えてしまいました。
ズドッ!
「――ヨッ!」
Jさんが笑顔で手綱を握りながら、着地の音を響かせます。
跨がっているブーケの迫力とは、まるで正反対の雰囲気でした。
35 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/08(金) 23:03:43.62 ID:nM52Bqk+o
ガコン、ゴッ!
何ヶ所目かの障害にブーケの蹄が引っ掛かってしまいました。
バーがぶつかった所からぐにゃりと曲がって、こちらへ向かって勢い良く転がって来ます。
――あら、ごめん遊ばせ。
帽子に軽く手を添えたJさんが、そう口を動かしたように見えました。
「蘭子、」
話しかけようと蘭子の方を振り向くと、食い入るようにJさんを見つめていました。
柵をぐっと握りしめて、口を開いて、輝く瞳でブーケの姿を目に焼き付けようとしています。
私も目を戻して、Jさんとブーケに拍手を送りました。
「ふぅ」
ブーケが最後の障害を跳び終えて、Jさんが再び一礼します。
柵の周りを囲うように集まっていた人たちから、一際大きな拍手が起こりました。
『記録は62秒。減点は4です』
「ごめんなさいね、ちょっと格好悪い所をお見せしてしまいました」
「……!! …………っ!」
「声になってないぞ、蘭子ちゃん」
握った手を一生懸命に振って、蘭子がJさんとブーケへ駆け寄ります。
「お手本になれたかしら」
「うんっ! すごい、すごい!」
「それは良かったわ。では、お願いしますね」
「えっ。何が?」
36 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 06:23:58.16 ID:08WZGmADo
「次はあなたの出番ですよ、リーダーさん」
「…………?」
蘭子が不思議そうな顔で私達を見つめます。
帽子からぴょこりと飛び出たポニーテールも、同意するように揺れていました。
「何の?」
「競技だよ。蘭子ちゃん」
「誰が?」
「蘭子です」
「これから?」
「ええ、そうですよ」
ぽっかりと口を開けて、蘭子がしばらく固まります。
そして辺りを見渡すと。
ついさっきまでのJさんの走りに、周りに集まった皆さんが盛り上がっていました。
「む、ムリムリ無理ですっ! こんなたくさんの盛り上がってる人達の前でっ!」
「何を言ってるんだい二代目シンデレラガールさんや」
「ダー。蘭子ならこの十倍居たってへいき、です」
「あ、あれはいっぱいいっぱい練習したからで……!」
「あら。練習ならあんなに一生懸命していたじゃありませんか、蘭子ちゃん」
「む、むむむむ……!」
蘭子が涙目になって、握った手をぶんぶんと振ります。
37 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 07:45:24.46 ID:08WZGmADo
「わ、我が」
『チームシンデレラ、最後は神崎蘭子さんです』
「ぴっ!」
蘭子が言おうとした言葉がアナウンスにかき消されます。
周りに集まったみんなが、蘭子に注目していました。
「わたっ、わたしは……」
「蘭子」
グリフォンを抱き上げて、蘭子の鼻先へ差し出しました。
蘭子の頬をたしたしと叩いて、丸い目で蘭子をじっと見つめます。
「ミィ」
「…………」
「グリフォンの言う通りです、蘭子」
「……良かろう。その言葉、信じよう」
(うん……やって、みるよ)
まだまだぎこちない動きで、蘭子が何とか落ちずにブーケへ跨りました。
固い表情のまま、スタート位置へと歩いて行きます。
「蘭子……緊張、してますね」
「そうですねぇ。普通そういった緊張は馬へ伝わって宜しくないものですが」
「?」
「真剣な乗り手には、ウマが合わせる事もあるんですよ」
Jさんの笑顔に、私は何度も頷きました。
38 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 11:50:49.40 ID:08WZGmADo
「ところでアーニャちゃん、一つだけいいかな」
「ダー。何ですか、プロデューサー?」
「……グリフォン、さっき何て言ったんだい?」
「『自分だって乗れるんだから、蘭子に出来ない筈がない。ここで応援している』、と」
「…………」
「ニャ?」
抱き上げたままのグリフォンを、プロデューサーが無言で撫でます。
真ん丸の瞳が、不思議そうにその手を見上げていました。
39 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 12:03:03.52 ID:08WZGmADo
― = ― ≡ ― = ―
『最後の走者は神崎蘭子さん。彼女はシンデレラガールズプロダクションに――』
アナウンスさんが私の事を紹介してくれています。
たぶん。
「…………」
でも、内容が全然頭に入って来ません。
馬の耳に念仏っていう言葉があったけど、これからは使わないようにしましょう。
『――ので、神崎さんのタイム次第では入賞――』
Jさんもブーケも、すっごくカッコよかった。
見てる人達もさっきの走りに夢中になって、まだ熱が冷めてないみたい。
……私も、あんな風に
「始め」
聞こえてきた合図に身体が震えました。
一拍遅れてブーケを走らせます。
すぐに、最初の障害が近付いてきました。
タンッ。
「や、やった……!」
何とか飛び越えられました!
そう思っていたら、次の障害はすぐ目の前まで迫っていて。
40 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 14:56:00.97 ID:08WZGmADo
「っ!」
体勢が整えられずに、手綱を引いて引き返しました。
私のせいで、不従順……もう一度やると、失権になっちゃいます。
「ブルッ……」
――どうした。
ブーケがそう訊ねるように振り返って。
――ウマを合わせてみてはどうでしょう。
Jさんの言葉が頭に浮かびました。
「行こうっ」
ブーケの呼吸に合わせて、二つ目の障害を飛び越えました。
41 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 15:25:51.74 ID:08WZGmADo
がしゃり。
十個目の障害でバーを落としてしまいました。
これで減点二つ目。
残ったのは、一番高い130cmの障害一つだけ。
「……っ」
あんな風に跳べる実力なんて無いのは、どうしたって分かってます。
でも、私を……ううん。
ブーケを見ている人達はきっと、また夢中になれるような何かが見たくて。
私も、期待しているみんなに、ブーケのカッコいい姿を少しでも見せてあげたくて。
私だって、アイドルだもん。
会場のみんなに、少しでも楽しんでほしいから。
だから。
「ブーケ」
お願い!
「――あなたに、合わせるからっ!」
まっすぐに障害へ向かっていたブーケの脚が。
ゆっくりと勢いを失って、バーのすぐ手前でぴたりと止まりました。
42 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 15:57:49.74 ID:08WZGmADo
「……ブーケ?」
不従順。
ブーケが障害の手前でくるりと振り返って、ゆっくりと真逆へ歩いて行きます。
……そっか。
私があんまりヘタだから、ブーケに愛想も尽かされちゃうよね。
でも、私はいいけど、ブーケのカッコいい所、もっとみんなに見せてあげたかったな。
ぴたり。
「え?」
他の人達が見守る柵の手前で、ブーケがまた立ち止まって。
もう一度、バーに向かって振り返りました。
「ブーケ?」
私の質問に、ブーケが力強い鼻息で答えます。
「ひゃ、わっ!」
そして、勢い良く走り出しました。
練習でも出した事の無いスピードに振り落とされないよう、必死で手綱に掴まります。
「ブー、ケ」
気付けば、障害はもう目の前で。
43 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 16:11:52.17 ID:08WZGmADo
ずどんっ。
とんでもない音が、お尻の下から響いて来て。
「翼を授かりし、天馬?」
(……とんでる?)
視界いっぱいに、気持ちの良い青空が広がりました。
44 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 16:42:26.36 ID:08WZGmADo
翼でも付いたみたいに、身体がふわりと軽くなって。
周りの景色が、とてもゆっくり動いているように見えて。
――まるで、魔法に掛かったみたいでした。
130cmより、ずっと。
160cmだって、らくらく跳べるくらい。
ううん。
空にだって、このまま飛べてしまいそうなくらい。
視線を横にずらすと、こちらを見上げる人達の顔が見えました。
その中に、みんなの姿も混ざっていて。
まぁるく口を開けて、驚いたようにこっちを見つめるアーニャちゃん。
隣で首を傾げながら見ている白雪。
アーニャちゃんと同じ青い目で、眩しそうに眺めるグリフォン。
何だか慌てたように駆け出しているプロデューサー。
そしてJさんは、ちょっと困ったような、どこか呆れたみたいな。
けれどいつもの優しい顔で、くすくすと笑っていました。
45 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 17:01:14.10 ID:08WZGmADo
視界の端に、私の両手が映っているのに気付きました。
でもその手には、不思議と何も握られてなくて。
「む?」
あれ、手綱はどこにいったんだろう?
辺りを探してみると、ブーケの背中が、そこに乗った鞍が、真下にあるのが見えました。
あ、なるほど。
「痛いの、やだなぁ……」
地面へ落っこちる寸前に、プロデューサーの大声が聞こえた気がしました。
46 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 17:19:35.85 ID:08WZGmADo
― = ― ≡ ― = ―
「うぅ。みんな、ごめんなさいー……」
「ごめん、ごめんなぁ蘭子ちゃん。俺がもっとしっかり準備すればこんな……!」
「ニェート。プロデューサーが悪いわけじゃない、です」
幸い、と言うべきでしょうか。
高く舞い上げられてから落ちたのに、左肘のねんざだけで済みました。
包帯を巻かれる蘭子も、包帯を巻くプロデューサーも、未だにちょっと涙目です。
「はい、湿布を持って来ましたよ。大丈夫ですか蘭子ちゃん」
「うん、だいじょうぶ。Jさん、ごめんなさい……」
「何を言ってるんですか。あなたもブーケも立派なものでしたよ? 特に最後のはね」
落馬は失権、失格になるルールです。
Jさんの記録は個人2位でしたが、チームは15チーム中13位でした。
みんな一生懸命に頑張った結果です。とっても嬉しい、です。
「蘭子ちゃんの歳であれだけ跳んだのは、私も初めて見ました」
「でも、落ちちゃったし……」
「そうですね。初めに教えた通り、落ちる前は手綱を握っておかないと危ないですが」
気付いて、Jさんが振り向きます。
そばに寄って来たブーケが心配するように、蘭子へ顔を近付けました。
蘭子が嬉しそうに手を伸ばします。
47 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 17:40:28.55 ID:08WZGmADo
「おお、天馬よ!」
(ブーケ!)
「ブルッ……」
ブーケが顔を背けて、どこかへすたすたと歩き去って行きました。
手を伸ばして固まったまま、蘭子がまた涙目になっていきます。
「ぶ、ぶーけぇ……」
「……ごめんなさい、忘れていました。あのコ、湿布の匂いが苦手で」
Jさんが、申し訳無さそうに笑いました。
48 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 17:54:57.59 ID:08WZGmADo
― = ― ≡ ― = ―
「わ、我が痴態を衆目に晒すと宣うのかっ!」
(落ちるとこはカットしてくださいっ!)
「いや問い合わせたんだけどね、今後の安全意識向上の為にも流してほしいと……」
「ぐ、ぐぬぬっ……!」
み、みっともないところをみんなに観られちゃうのはイヤだけど……。
みんなに乗馬も怖がらないで始めてほしいし……むむむ。
「まぁ表彰式も終わったし、今日は帰ってゆっくり」
「あ、あのっ!」
背中から声を掛けられて、プロデューサーが振り向きます。
乗馬服を着た、ちょっと年上の女の子二人組でした。
「サインしてもらえませんかっ」
色紙を差し出されます。
「む……我が紋章を欲するか」
(えっと、私の?)
「あ、はい! その、それと……」
「アー、私も、ですか?」
「いいですか?」
「ほい。二人とも、ペン」
二人のお名前を聞いて、二枚の色紙にサインします。
ふふふ……サインの練習ならバッチリです!
アーニャちゃんのロシア語のサインもカッコいいなぁ。今度教えてもらおうかなー。
49 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 18:12:08.69 ID:08WZGmADo
「ズェベルシーニェ。書けました」
「えっと……スパシーバ!」
「それで、ですね……あのっ……」
色紙を受け取った二人が、また色紙を差し出してきます。
あれ、お名前の漢字、間違っちゃったかな?
そう思ったけど、よく見ると色紙が差し出されているのは私じゃありませんでした。
けれど、アーニャちゃんでもなくて。
「……あら、私?」
「は、はいっ!」
二人が、真剣な顔でJさんに色紙を差し出していました。
「まぁまぁ。私はアイドルではありませんけれど」
「よく知ってますっ」
「アーニャちゃん達の隣に書いてしまっていいんですか?」
「はい!」
私達のサインを受け取ると、二人はとっても素敵な笑顔で戻って行きました。
……えっと。
「Jさん、やっぱりアイドルでしたか?」
「お二人のように可愛ければやってみたかったですねぇ」
50 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 18:37:34.02 ID:08WZGmADo
「そうだそうだ、さっき言いそびれたんだったな」
プロデューサーがペンをしまいながら呟きます。
「Jさん、乗馬の世界大会メダリストだから」
「成程…………えっ」
……世界大会の、メダリスト?
「よしてくださいな。半世紀も前にマグレで銀を貰っただけですよ」
「いやいや。日本の女性で世界のメダルを獲ったのは後にも先にもJさん唯一人じゃありませんか」
「あ、あのっ!」
「どうしましたか、蘭子ちゃん?」
「えっと……世界大会でメダルを貰うのって、すごくすごいんじゃ……」
「うん、凄いよ。俺も後でサイン貰おうと思ってたぐらい」
思わず口が開いちゃいました。
あ……だから会場のみんな、慌ててたんだ。
突然発覚してしまった新事実に、アーニャちゃんと顔を見合わせます。
「アー。どうしてそんな凄い人が、私達に?」
「ああ、Jさんはメダル獲った頃ね……」
「いやだわ、お恥ずかしい」
Jさんが、困ったように口へ手を当てます。
51 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 19:17:01.16 ID:08WZGmADo
「『白馬に乗ったシンデレラ』、と呼ばれていたんだ」
「灰被り……」
(シンデレラ……)
「蘭子ちゃんには、謝らなければいけませんね」
Jさんが乗馬帽を脱ぎました。
夕陽に照らされて、銀の髪がきらきらと輝いています。
「実は彼女もここに居たんですよ、半世紀も前ではありますが」
「彼女?」
「私にメダルを咥えて来てくれた馬。サンドリヨンです」
「サンド……?」
「フランス語で、シンデレラ、ですね」
「博識だねアーニャちゃん」
半世紀前の、Jさんの愛馬。
銀の輝くメダルを提げた、白馬……。
「さて、私はそろそろお暇しましょう。久々に動いたら腰に来てしまいまして」
帽子を被り直して、Jさんが白雪に跨がります。
白雪の顔は、何だか誇らしげに見えました。
「先達よ、深き感謝を捧ぐ」
(ありがとうございましたっ!)
「バリショエスパシーバ!」
「お世話になりました。お礼はまた改めて後日」
「またいつでも来てくださいね。馬はいつでも歓迎しますよ」
52 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 19:30:12.50 ID:08WZGmADo
Jさん達が夕暮れの桜並木の下を帰って行きます。
白雪のしっぽが誇るように揺れていて。
Jさんの短いポニーテールも、揃って揺れていました。
「プラッフラードナ……格好良い、ですね」
「うん……」
「ああ。でも、俺は二人だって負けてないと思ってるよ」
「私達も?」
「最初に言っただろう?」
プロデューサーが、私の腕にグリフォンを預けます。
まだまだ子供のグリフォンは、疲れたのかぐっすりと眠っていました。
「『次世代のシンデレラ』だ、ってね」
53 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 19:50:09.82 ID:08WZGmADo
― = ― ≡ ― = ―
「どうだい、アーニャちゃん」
「ネイボルシィ……夢みたい、です」
「それは何よりだ」
――カボチャの馬車。
御伽話の魔法が、目の前に停まっていました。
54 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 20:06:05.06 ID:08WZGmADo
「どうしても一度やってみたかったんだよ。ガラスの靴だけじゃちと物足りないと思ってね」
「マギヤ……魔法で創ったんですか?」
「残念ながら魔法は使えなくてなぁ。大事なのはここさ」
「?」
「伝わらなかったか……」
プロデューサーが自分の腕をぽんぽんと叩きました。
……手作り、でしょうか?
「本当は東京駅とかでやりたかったけども、あの辺は流石に止められないからなぁ」
「ここも、人でいっぱいです」
「スポンサーのおか……まぁいいや。魔法にタネは無いもんだ」
事務所の最寄り駅。
その駅前通りを借りて、イベントが開かれていました。
「チケットフォーユー、ですか」
「洒落た名前だろう? 舞踏会へご招待ってね」
「シンデレラは、いるでしょうか」
「どうだろうなぁ。シンデレラは一人だけじゃないから」
カボチャの馬車に、乗ってみませんか。
そう銘打って、イベントへ参加する女の子を募集しました。
詳しい数は聞いてませんが、かなりの倍率だったらしいです。
55 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 20:20:02.00 ID:08WZGmADo
「絞りに絞って20人だからなー。本当なら全員来てもらいたい所だけど」
「四人乗り、ですね」
「相乗りってのもどうかと思ったけど、まぁ大人の事情で」
馬車の扉を開いて中を見回します。
カボチャ色の内装に、ところどころガラスの飾りが付けられていました。
「アーニャちゃん」
プロデューサーが、真剣な声で言いました。
「乗ってみる?」
56 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 20:27:09.90 ID:08WZGmADo
「――ニェート。私は、乗れません」
「…………」
「でも、いつか。乗れるように、なります」
「…………そうか」
プロデューサーが笑って頭を掻きます。
私はまだ、カボチャの馬車には乗れません。
いつか、蘭子に追い着けたら。
その時は、二人で一緒に乗ってみたい、ですね。
「アーニャちゃんに今回のイベントへ参加してもらったのはね」
「はい」
「俺のワガママなんだ」
「……ワガママ、ですか?」
「ああ。ワガママ」
プロデューサーの手が、そっとカボチャの馬車を撫でます。
その目は、どこか遠くを見つめているみたいでした。
「アーニャちゃんに、シンデレラが見る景色を間近で見てほしかったんだ」
「……それだけ、ですか?」
「王子様役が必要だったってのもある。『迎えに行こう、王子様を。』ってね」
改めて、私の着ている服を見直しました。
白いズボン、黒いブーツとジャケット、金のサーベル。
今日の私は、シンデレラじゃなくて王子様でした。
57 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 21:01:56.64 ID:08WZGmADo
「ただまぁ、本当に理由はさっき言ったのが大きいよ。何せ――」
そう言って、プロデューサーが私と向かい合います。
浮かべているのは、今までで一番かもしれない笑顔でした。
「――どうせシンデレラになってやるんだ。ちょっとぐらい予習した方がいいだろう?」
58 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 21:13:04.65 ID:08WZGmADo
「……フフ。プロデューサーは、ずるいですね?」
「大人はなー、ずるいのさ」
カボチャの馬車のすぐ隣で。
王子と、悪知恵の働く側近みたいに。
二人でくすくすと笑い合いました。
「シンデレラには内緒だぞ?」
「ダー。蘭子はとってもすごい子ですから。そのまま頑張ってほしいです」
「ああ。蘭子は、凄いよ」
――かぁん、ごぉん……。
鐘の音が響いて、イベントの開幕までもうそろそろだと知らせてくれました。
59 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 21:26:15.11 ID:08WZGmADo
― = ― ≡ ― = ―
「プリヴェート! みなさん!」
『キャアアアアアアッ!!』
王子様姿のアーニャちゃんが微笑むと、興奮した何人かの女性ファンが倒れました。
いつものように待機していた看護係の人たちが、手慣れた様子で倒れた人を運んで行きます。
相変わらず凄い人気です。
「本日は、私自らがみなさんを舞踏会へご招待致します。さぁ、どうぞ」
『は、はいっ!』
緊張しているのか、顔を赤くした四人の女の子たちが馬車へと乗り込みます。
ブーケに乗ったアーニャちゃんがまた微笑むと、二人ほど追加で倒れました。
凄い人気です。
「…………」
「……流麗なる御者を望むか?」
(あっちに乗りたかった?)
「流麗……えっ!? いや、そんな事無い、ですっ!」
「何時でも申すが良い」
(そう? 気にせず言ってね)
「わ、わたしは蘭子ちゃんとの方が……」
荷が重いでしょう、とJさんの言う通り、馬車はブーケに引っ張ってもらう事になりました。
競走馬なのに凄いです。
ブーケもアーニャちゃんに乗られて大人しくしています。
……私の時にもそれぐらい大人しくしてほしいなぁ。
60 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 21:41:59.89 ID:08WZGmADo
「あのっ」
「む」
「綺麗なお馬さんですね」
「うん! えへへ……」
代わりに私は白雪に乗っています。とっても良い仔です。
わたしのすぐ前に黒い髪の綺麗な女の子も乗せて、二人乗りしちゃってます。
白雪も意外と力持ちです!
『――さぁ、出発の時刻となりました! 仮初ではありますが、舞踏会までの道をお楽しみください!』
ごぉん、ごぉん。
「――さぁ、行こっ! 王子様!」
十二時、ちょうど。
「――ダー。行きましょう、シンデレラ!」
お昼休みの駅前通りに、鐘の音が響きました。
61 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 21:53:15.64 ID:08WZGmADo
ぱか、ぱかっ。
通り沿いに集まった人達に、大きく手を振ります。
アーニャちゃんも手を振ると、また女の人が一人倒れました。
「ほらっ。手、振ってみよ?」
「え? えっ、と……」
「こうやって!」
「…………わぁっ」
腕の中の女の子が手を振ると、通り沿いのみんなも手を振り返してくれます。
ちらりと顔を覗き込むと、
「……フフフ…………!」
女の子の瞳は、きらきらと綺麗に輝いていました。
「蘭子ちゃんっ!」
「どうした?」
(ん?)
「アイドルって、すごいね! お馬さんにも乗れちゃうんだ!」
「今宵の我は単なる偶像には収まらぬ」
(今日の私はただのアイドルじゃないよ!)
「え?」
「だって――」
プロデューサーから預かったお姫様ティアラを、女の子の頭にそっと載せました。
「――私も、あなたも、シンデレラだもん!」
62 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 22:01:20.32 ID:08WZGmADo
久しぶりに袖を通したドレスも。
しばらくぶりに履いたガラスの靴も。
やっぱり、見ているだけで嬉しくなっちゃいます!
「蘭子ちゃん」
女の子が、真剣な顔になりました。
その表情はちょっと不安そうで、でも気持ちが込められていて。
「アイドルって、楽しいですか? 私も、シンデレラになれますか?」
63 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 22:07:48.48 ID:08WZGmADo
「舞い踊る偶像とは、常に業と背中合わせよ」
(苦しいことや、大変な事もあるよ)
「……っ」
「でも。でもねっ!」
俯いた女の子を、ぎゅっと抱き寄せました。
そうやって、目の前に広がるこの光景を見てもらいます。
ガラスの靴。
優しい白馬。
輝くティアラ。
カッコいい王子様。
カボチャの馬車――
「それ以上に、楽しい事がいっぱいなの!」
アイドルって、楽しい!
「ライブをしたり、合宿に行ったり。お馬さんにだって乗れちゃったり!」
女の子の目は、近くで見るととても澄んでいました。
「それに、誰だってシンデレラになれるんだよ」
64 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 22:23:16.99 ID:08WZGmADo
「誰、でも?」
「うん! だって、私達には」
大きく手を振りました。
「時々頼りなくて、結構いじわるで、でも、ガラスの靴を履かせてくれる――」
あの人は。
いつだって。
いつものように。
笑って手を振り返してくれて――!
65 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[saga]:2015/05/11(月) 22:24:08.12 ID:08WZGmADo
「素敵な魔法使いさんがついてるんだから!」
66 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[nagasaki]:2015/05/11(月) 22:25:41.40 ID:08WZGmADo
おしまい。
蘭子ちゃんは良い子魔王可愛いし、アーニャちゃんは天然天使可愛い
映画シンデレラ観ました
魔法使いがガラスの靴を創った後、ちょっとだけオマケの魔法を掛ける辺りで泣きました
これにてCoシリーズ『ガラスの靴のシンデレラ』は完結です
誰もがシンデレラ。
という訳で以下に過去作を全部載っけときます
また見かけた時に読んでくれたら嬉しい
67 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[魔法の数字:91211359 twitter:@Rhodium045]:2015/05/11(月) 22:28:58.99 ID:08WZGmADo
過去作
■『ガラスの靴のシンデレラ』
渋谷凛「例えばの話だけどさ」 モバP「おう」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1410679912/
)
渋谷凛「ガラスの靴」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1404552719/
)
藤原肇「彦星に願いを」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1405601439/
)
北条加蓮「正座」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1409924975/
)
速水奏「凶暴な純愛」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1411827544/
)
高垣楓「時には洒落た話を」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1413010240/
)
アナスタシア「可憐なる魔獣」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1416053247/
)
鷹富士茄子「不幸中の幸い」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1417782233/
)
塩見周子「看板娘」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1421464596/
)
神谷奈緒「魔法使いの弟子」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1423833234/
)
岡崎泰葉「あなたの為の雛祭り」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425633517/
)
神崎蘭子「白馬に乗ったお姫様」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430319387/
)
渋谷凛『シンデレラ』 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419402791/
)
■イチャつくやつ
渋谷凛「プロデューサー、構って」 モバP「ん?」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419925534/
)
モバP「加蓮、なんか近くないか?」 北条加蓮「そう?」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1413616683/
)
速水奏「どこ見てるの、Pさん?」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1424603131/
)
高垣楓「私の事、きらい……なんですか?」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420354482/
)
アナスタシア「シンパチーチナ、です」 モバP「え?」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422688926/
)
鷹富士茄子「むぅ、ツイてないですねー」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1425114714/
)
■その他
藤原肇「大事なのは、焦らない事です」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422349310/
)
速水奏「雨に躍れば」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1427535253/
)
高垣楓「一線を越えて」 (
http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1428818898/
)
68 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 22:52:06.94 ID:6GJKUY6Co
おっつおっつ
全て読んでいた俺に隙は無かった
69 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/11(月) 23:52:44.50 ID:08WZGmADo
>>68
書いといて言うのもアレだけどあなた凄いわ
ありがとう
70 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/12(火) 00:00:49.41 ID:FXP2tOmfo
おつおつ
オレも全部読んでる。文章と雰囲気が好きだ
71 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/12(火) 00:20:19.31 ID:qIDEZ/BE0
だいぶ忘れてるけどみんな読んでる全部好き
72 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
:2015/05/12(火) 01:20:36.49 ID:yxHZ7M6L0
当然全て読んでいた。
完結が本当に寂しいわ
登場キャラと雰囲気でわかる作者だった
73 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/12(火) 01:28:16.30 ID:kZQEg1ul0
完結かぁ……お疲れ様
またあなたが書くCoの面々を読みたいわ
74 :
以下、名無しにかわりましてSS速報VIPがお送りします
[sage]:2015/05/12(火) 14:44:40.84 ID:YOhoQoyDO
全部読んでくれた人多過ぎ泣いた
CG周子の絵柄次第だけど、たぶん次は 塩見周子「ガラスの仮面」 で建てるので良ければ読んでね
Coだと文香と美優さんが書き差し、後は藍子と桃華ちゃまが最初だけ書いてます
モバマスは素晴らしいキャラが多くて困りますね
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[ Aramaki★
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